「痛い揉みほぐし、痛気持ちいいストレッチ・・・」痛みを伴う刺激のデメリット

「痛みを与えること」は長期的に見るとデメリット?

痛い刺激を加えると、一時的に痛みが楽になる?
痛い施術や強い刺激のセルフケアを行った時に、どうして一時的に痛みが減る効果を感じるのでしょうか。
実は痛い刺激を加える事で脳から鎮痛が起こる仕組みが私達にあるからです。その現象の事を広汎性侵害抑制調節:DNIC(Diffuse NoxiousInhibitory Controls)、もしくは条件刺激性疼痛調節:CPM(conditioned pain modulation)といいます。DNIC/CPMは他部位に新たに加えた刺激が痛みの抑制に働きます。例えば、腰の痛みが足底への痛い刺激で抑制されたり、肩の痛みが手への痛い刺激で抑制されたりします。これには広作動域ニューロン:WDR(wide dynamic range neuron )が関与していることが知られています。侵害刺激を受けると、脊髄後角や三叉神経脊髄路核尾側亜核にある広作動域ニューロンがセロトニン作動系やノルアドレナリン作動系などの内因性鎮痛系の働きにより痛みを抑制するとされています。また、痛みを伴う刺激により脳からの鎮痛が働くと脊髄からの逃避反射も一時的に減りますので筋肉の緊張(コリ)が減少したり、可動域も増えます。ここまでの説明ですと、痛みを抑制する良い反応だけのように聞こえてしまいますが、強い圧迫や摩擦を加える事で組織損傷・炎症のリスクがあること、痛みを経験することで身体を警戒状態にしてしまうこと、逃避反射の反応(筋緊張)をその後には強くしてしまうこと、末梢性感作・中枢性感作の問題、そもそも根本的な改善につながらないこと。など、数々のデメリットを挙げることができます。

自律神経の中の交感神経が活発に働く
自律神経の中の交感神経は「闘争と逃走の神経」とも呼ばれます。身に危険が迫った時や身体の機能を活発に働かせる時に活性化します。代表的な働きとして、血圧・心拍数の上昇、筋肉を緊張させる、発汗を促す、腸の蠕動運動を抑制するなどがあげられます。また、神経の中にも血管があり、この血管にも交感神経が分布しています。交感神経が活性化すると血管平滑筋が収縮し、血管を細く硬くさせます。つまり神経内の血流が減少し栄養や酸素の供給が障害される可能性があります。

逃避反射が働いてしまう
逃避反射とは侵害刺激(組織を損傷する、もしくはその可能性がある刺激)が加わった時に、手足を引っ込めるような反射の事です。
例)熱いやかんに手を近づけた際に、手を素早く引っ込める。脳を経由せずに脊髄後角にある介在ニューロン(ニューロン同士の連絡をする)から筋肉に収縮するように命令が行くので、無意識的に起こります。肩こりや、腰痛などで筋肉が硬くなっている状況はこういった逃避反射が持続的に起こっている状況と考えられます。「硬くなった筋肉を強く揉んでほぐす」といった理論を聞くことがありますが、筋肉が硬くなっているのには身体がこれ以上侵害されないように守ろうとする理由があっての事です。そこに強い刺激・痛い刺激を加えるとさらにその反応を増やし、筋肉を硬くさせてしまいます。

組織損傷が起こる
例えば、痛いセルフケアやきつい施術を受けた後、身体がこわばったり、押さえられた場所に痛みがあったりします。「好転反応」などではなく、揉み返しという名の「組織損傷」です。身体の一番表層にあたる皮膚には多くの皮神経や皮神経に繋がる血管が分布しており、強い刺激を加えた際には一番表層にあるために傷つけてしまう可能性が高いはずです。皮神経などの末梢神経は当然中枢神経と繋がっています。痛いセルフケアや痛い施術を受ける習慣は組織損傷による末梢性感作、中枢性感作といった痛みの軽減に不利な状況を作る可能性を考えることができます。

痛みは情動と関わっている
「偏桃体が下す情動の評価によって自律神経も表情も姿勢も運動も精神活動も変わる」参考:半場道子/慢性痛のサイエンス/医学書院

侵害刺激(組織を損傷する、もしくはその可能性がある刺激)の情報は「大脳皮質感覚野」の感覚的な側面を司る部分(体のどこ?どのくらい強さ?)と「大脳辺縁系」の情動的な側面を司る部分(不安,嫌悪,抑うつ,恐怖などの負の情動)とにそれぞれ入力されます。
脳の奥深くにある、この大脳辺縁系と呼ばれる場所は情動、記憶、本能行動、動機付け、自律神経調節などの身体の重要な機能に関係しています。

その中にある扁桃体には、味覚、嗅覚、内臓感覚、聴覚、視覚、体性感覚などから集められた、あらゆる種類の「刺激」が入力されます。そして、その刺激が益か害かの評価をしています。そして、偏桃体は自律神経の最高中枢と呼ばれる視床下部や姿勢・運動の制御に関わる脳幹にも投射し、情動の形成を行っています。
つまり、痛みや不快な感覚は身心の機能を変化させてしまう可能性があることを考えなければいけません。

結論
結論として身体に痛い・痛気持ちいい刺激を与えると爽快感や鎮痛の効果は得られますが一次的で、デメリットが多いことが考えられます。痛みや筋肉のコリがいくら揉んでも叩いても良くならないのは、その刺激が症状にとって良くない刺激だからかも知れません。

DNM
疼痛科学・神経科学をベースに開発されたため、痛みを伴う刺激を与えないことを大切にした徒手療法があります。
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