広汎性侵害抑制調節:DNIC(Diffuse Noxious Inhibitory Controls)

広汎性侵害抑制調節:DNIC(Diffuse Noxious Inhibitory Controls)(※1)は元からある痛みが新しい侵害刺激(熱刺激・機械的刺激・発痛物質)を加える事で一時的に軽減する現象の事を言います。例えば、もともとあった手の痛みが手と離れた部位である足の侵害刺激で減弱する現象をさします。強いマッサージ、痛みを伴うストレッチなどで痛みが一時的に減少するケースはDNICで説明できます。
DNICは末梢で受けた侵害刺激の情報が脊髄の中を通る際にその情報が脳にたどり着かないようにしています。中枢神経の入り口である脊髄後角や三叉神経脊髄路核尾側亜核で侵害刺激をコントロールしています。新しい侵害刺激が入力されると、脳幹を経由してノルアドレナリン下降性抑制、セロトニン下降性抑制などの内因性疼痛抑制系が働き、身体の末梢から伝わって脊髄(後角)に入ってきた侵害刺激を抑制します。
※1 特に人で起こるこの現象をCPM(Conditioned Pain Modulation)と呼んだりします。
また、DNIC/CPMは慢性疼痛に悩む方にはその効果が得られにくいといった研究もあります。(元々、慢性疼痛の患者様は下降性疼痛抑制系(痛みを減らす働き)の機能が弱くなっている)

私見ですが、慢性痛で悩む患者様にDNIC/CPMの効果を狙った強い刺激や痛い刺激のアプローチをしたところで痛みの軽減に結び付きにくいということですし、仮にDNIC/CPMの効果を得られたとしても一時的です。その上、組織損傷のリスクもあります。組織損傷が起これば(もしくは起こらなくとも)、身体の防御反応がさらに増えます。末梢性感作、中枢性感作の問題もあります。痛い刺激を慢性痛の根本的な解決方法に組み入れることは難しいのではないかと考えています。さらには、こういった「痛みを伴う施術」が痛みに悩む方の問題をさらに複雑にしている可能性について考えてしまいます。