扁桃体と痛み

扁桃体(へんとうたい)

脳の奥深くに辺縁系という構造があります。ここは情動や本能や記憶に関わる場所として知られています。その中でも特に不快感や恐怖、不安、怒りなどの「負の情動」の発現に関わる神経核があり、扁桃体(へんとうたい)と呼ばれています。扁桃体には侵害刺激をはじめ、触覚、嗅覚、味覚、聴覚、視覚、内臓感覚などの生きる上で必要な感覚全てが入力されています。そして、その入力された感覚がこれまでの経験や記憶からして「有害」か「無害」か、また「快」か「不快」かを判断しています。「ケガをして痛みを感じた時、顔が青ざめて、呼吸や脈拍が早くなり、冷や汗が出て、不安感や恐怖感を感じる…」というのは扁桃体が侵害刺激の信号入力に対して「有害」「不快」だと評価し、自律神経や姿勢や表情、精神活動などに関連する神経核にその情報を送っているからです。そして、この不快な負の情動を記憶し、必要な時に発現させる事ができるおかげで事前に身の危機を感じることができ、身を守ることもできます。

侵害刺激の情報が扁桃体に届くまで

侵害刺激(痛みを感じる可能性がある刺激)の信号は脊髄を上行し、脳幹で外側系と内側系に分かれて伝えられます。外側系は”体のどこが、どう痛むか”といった感覚的な側面を伝える経路で、内側系は”苦しさ、悲しさなどの感情に伴う身体の変化”といった情動的な側面を伝える経路です。内側系の経路は脳幹を上行したのち視床(髄板内核ニューロン)を通り、ここから扁桃体をはじめ、複数の神経核に侵害刺激の情報を伝えます。
また、扁桃体に侵害刺激の信号を届ける経路は複数あり、「脊髄ー腕傍核ー扁桃体投射」といった経路も注目されています。こちらの経路は視床や皮質を介さず、扁桃体に直接的に侵害情報が入力されています。

扁桃体が評価した情報は多くの神経核に送られます

複数の経路を経由して扁桃体に感覚情報が入力されます。そして扁桃体から多くの神経核に扁桃体が評価した情報が送られます。その結果、自律神経や、表情や姿勢、認知機能や精神活動の変化を素早く起こします。
例えば、脅威、不安、痛みなどの不快だったり、有害な刺激を受けると、刺激から逃避したり、すくんだり、心拍数が高まったり、ホルモン分泌などの身体的な反応を引き起こします。

「痛い」「きつい」「不快」な刺激を身体に与えること

結局のところ、扁桃体が評価した情報によって自律神経(血流や血圧、呼吸や消化)、表情や姿勢、精神活動まで変化します。上記から、例えばマッサージ、毎日のセルフケア…、身体に入力する刺激には気を付けた方が良さそうです。
特に、痛みを感じるような強い刺激は、組織損傷の危険があるだけではなく、自律神経、姿勢や表情、精神活動まで変化させる可能性があることや、より痛みを複雑にさせてしまうリスクを加味して考える必要がありそうです。体に良かれと懸命に続けている事が慢性痛を助長させる影響を与えていたら少し残念な気持ちになりますよね。

参考:半場道子/「慢性痛のサイエンス」/医学書院
Eric.R.Kandel/「カンデル神経科学」/メディカル・サイエンス・インターナショナル