ペインマトリックスって何?

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ペインマトリックス

そう言えば「あなたの〇ぜ、のどから?鼻から?熱から?」「私は…鼻から!」みたいなCMがありましたよね。
あのCMについての話は置いておいて、「痛み」について言えば、痛みは脳からしか作られません。

「あなたの痛み、何処から…?」

今回は脳で痛みが作られる場所についてのお話をしようと思います。

急性痛であれ、慢性痛であれ、痛みは脳で表現されています。
では、脳の中のどの場所でどんなふうに痛みが表現されるかと言いますと、
「脳の色々な場所」が相互に作用し合って表現されています。

「なんじゃそりゃ!」ですよね…。

ですが、ズバリ痛みを作っているのは「この部分です!」と言えないのです。

痛みを感じている時に脳が活動する部分を「痛みの関連脳領域」とか「ペインマトリックス」と言います。
ペインマトリックス(Pain Matrix)は、痛みの知覚と処理に関与する脳内の一連の領域を指します。これは、痛みが単一の脳領域で処理されるのではなく、複数の領域が協調して働く複雑なネットワークであることを示しています。この概念の根拠は、神経科学の研究や脳イメージング研究に基づいています。

「おにぎりってどんな味するの?」と尋ねられた時にその味について詳細に話そうと思うと難しいですよね。少し、塩分を感じて、噛んでいるとお米のほのかに甘い感じもして、表面に巻かれたノリの味もして、鮭だったり、こんぶだったり、そういった具の味もして…。何だか少し嬉しい感じもして、小学校の遠足を思い出す懐かしい味…。個人的にはそのように感じたりします。

そして、きっと私とあなたの「おにぎりの味」は一緒のようでいて、違っています。

最後の「少し嬉しい感じ」「小学校の遠足を思い出す懐かしい味…」などは、もはや舌の上で感じている訳ではありませんよね(笑)。私にとっては「嬉しい感じ」でも他の誰かにとっては「失恋を思い出す切ない感じ」かも知れません。

それぞれ皆繋がっているシナプスのパターンが違い、痛みも「おにぎりの味」と同じように様々な要素がお互いに関係しあって作られています。

ペインマトリックスの構成要素

ペインマトリックスは、以下の領域から構成されます。
主に痛みの処理を行う場所は「責任領域」と呼ばれます。
責任領域とされているのは1次体性感覚野(S1)、2次体性感覚野(S2)、島(insula)、視床(thalamus)、前帯状回(ACC)、前頭前野(PF)。

また、これらを補足する「関連領域」として、補足運動野(SMA)、1次運動野(M1)、後頭頂葉(PPC)、後帯状回(PCC)、基底核(BG)、視床下部(HT)、扁桃体(AMYG)、傍小脳脚核(PB)、中脳水道灰白質(PAG)があります。参考:痛みの機能的脳画像診断

痛みの要素は大きく3つの要素を考えることができます。感覚的要素、情動的要素、認知的要素です。
ペインマトリックスの構成要素(領域)にこれらを当てはめると以下のようになります。

①1次および2次体性感覚野→感覚的要素
②扁桃体・島・前帯状回→情動的要素
③前頭前野(前頭葉)→認知的要素

例えば、感覚的要素は主に1次体性感覚野や2次体性感覚野などで処理され、情動的要素は偏桃体や島、前帯状回などで処理されます。認知的要素は前頭前野などで処理されています。これらの領域が痛みの要素を処理する際には、相互に連携して作業を行っています。

ですので、感覚によっても、生じる情動によっても、それらを含む状況をどのように認知しているかによっても「痛み」に影響します。

ところで痛みを慢性化、複雑化させてしまう「コツ」は痛みを長期間にわたり、頻回に経験することです。
つまり慢性痛を悪化させないためには「痛い経験」をこれ以上積まない努力が大切なことのように思います。

また、「ガチガチに凝ってますね」「痛そうなケガですね」「これは相当痛いですね」
上記のような声をかけられた時やその言葉を思い出す時、強い刺激や痛みを伴う施術を受ける時、またそのような脅威を予測した時…。そのたびに、痛みに関連する領域の興奮を高める可能性があると考えています。

ペインマトリックスは、痛みの知覚と処理に関与する複数の脳領域の複雑なネットワークであり、痛みの感覚的、情動的、認知的な側面を統合的に処理します。この概念は、多くの神経科学的研究により支持されており、痛みの理解や治療の発展に重要な役割を果たしています。

上記の痛みのメカニズムを加味して考えますと「私の痛みの原因は何ですか?」という質問は、実は非常に難しい質問かも知れません。特に慢性痛の場合は痛みの原因が構造の変化や疾病にあると考える生物医学モデルだけでは説明ができないことが大半だと思います。


引用:痛みを理解しよう‐10分でわかる痛みの対処法(Japanisch)/Deutsches Kinderschmerzzentrum/www.youtube.com/@deutscheskinderschmerzzent1105/著作権 ボリス ツェアニコフ、ミュンスター

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